広島さん。

某カープ好きグループにてだらだら書きました。

その二十九(広島さん『野球だ野球だ!前夜祭も併せて読んでね相変わらず超長いぜ』スペシャル その1)。

僕の同級生、広島さんはとなりのクラスの人気者。
だけど僕にだけよく分からない事をいいにくるのが玉に瑕。

試合当日は、抜けるように青い空が広がってて、絶好の野球日和だった。

木曜日の夜から日曜の朝ギリギリまで。
広島さんのお父さん率いる『広島ルーリーカープ』は時間が許す限りの猛練習をした。
新人の僕、湯川と早く馴染むために。
それ以上に勝つために。
練習はとにかくすごかった。
このチームがルーリーさんの云うような『オッサンの集まり』じゃないのは練習をして三分でわかった。
怖いとかキツイとかじゃなくって、普通の人よりちょっとだけ上のレベルで、ぬるく、でも真面目にやってるっていうか。
上手い言葉が見つからないから、興味のある人は一回見に来た方がいい。
とにかくすごかったんだから。

で、メンバーもすごかった。
試合の前に何人か紹介させて。

まずはバッテリー。
僕の母もよくいく魚屋さん、『魚広』の看板夫婦、外木場よし子さんと四郎さんの二人。当然奥さんがピッチャーで、旦那さんがキャッチャーだ。
奥さんのよし子さんは、小柄でぽっちゃりした(失礼)身体から130キロ前半(!)のストレートと、曲がりの鋭いカーブを繰り出す、コントロール抜群の右の本格派(本人談「アタシ馬鹿だから新しい球覚えらんないのよぉ」)。
女房役の旦那さん(笑)、四郎さんはキャッチングセンス抜群、強肩。何より奥さんとの呼吸が当たり前だけどぴったりで、よし子さんの能力を二倍、三倍に引き出している(と思う)。あんまりしゃべる人じゃないけど、たまに云ってくれる助言のその的確な事と云ったら(「湯川くん、変化球狙いの時、右肩が少し上がってる。そんなんじゃ福岡の息子にすぐばれるぞ」)。打撃はそれほどでもないけど(僕よりはうまいよ!)、チームの強力な要だ。

次に一塁。
ここを守るのは身長200センチ、チーム一の大男。
メタルフレームの眼鏡が似合う、三条正平さん。
ルーリーさんの店の近所の郵便局で働いてる。
とにかく手足が長くて体が大きいから、こんな有り難い的もないわけで(笑)。
仕事柄か、物腰がすごく柔らかくて、いつもニコニコしてて、周りに対する気遣いが尋常じゃない。ルーリーさんいわく、「よし子さんが試合で(ちょっとナーバスになってるかな)と自分や旦那の四郎が気づく前に、正平がマウンドに行ってる」らしい。
打撃はと云うと、人柄通りの柔らかい(ように見える)スイングで左右に打ち分けるテクニカルな中距離ヒッター、というところ。「何とかやっつけて、四番のルーリーさんに任せるだけしかできないからね、僕は」なんて本人は謙遜してるけど、その日一番に打席に立つ前の三条さんの儀式(ボックスに入る前に深々と頭をホームベース方向に垂れたまま。バットは右手に下げて持ち、空いた左手で首の後ろを軽く揉む)、何かカッコよくて、僕は家で何回もモノマネした。
ちなみに、チームを作ろうとなった時に、ルーリーさんが一番に声をかけたのが三条さんだそうだ。

もう、この勢いで全員紹介したいんだけど、それはおいおい話すとして、試合当日の話を始めよう。

現地集合という事で向かった市営球場は、とんでもないことになっていた。
駐車場も駐輪場もいっぱい。
球場からはものすごい人がいるんだろうという音が聞こえてた。

マジか。

『おはよう、湯川くん』
『あ、三条さん、おはようございます!・・・何なんですか、この人手?』
『僕らの試合を観に来てるんだよ』
『(驚愕)』
『いや、福岡さんちとの試合は大概こんなだよ。ルーリーさん、君に何にも云ってなかったの?』
『(黙って首を縦にぶんぶん振る湯川くん)』
『そうか(苦笑)。ルーリーさんも人が悪いな。よく聞いてね、湯川くん』
『はい』
『今日のゲームは、我らがルーリーさんのいる中央商店街と、福岡さんのいる太平洋商店街の、代理戦争みたいなもんなんだよ』
『・・・(瞳孔が開いてきた湯川くん)』
『なんてね。それは冗談だけど』
『勘弁してください、三条さん!』

とはいえ、その後に聞いた説明では、三条さんのいう事は丸きりウソでもなく。
中央商店街きっての人気者、ルーリーさんと太平洋商店街一の稼ぎ頭、福岡さんの野球対決。
しかも今回は福岡さん自慢の次男坊が出る(と福岡さんがふれ回った)との事で。
両方の商店街はもちろん、近所の野球好き、おまけに僕と福岡の通う高校では、結構な評判だったらしい。

『でも三条さん。僕、友達から何も云われませんでした』
『当たり前だろ、君はウチの秘密兵器なんだから』
『でも鷹一が』
『情報を漏らすって?あり得ないよ、だって1年生でエースの彼が、君とリコちゃんにやきもち焼いてお父さんの草野球の試合に出るなんて言いふらすと思うかい?多分彼、自分が出る理由、お父さんには、君の事を伏せたウソをついてるはずだね』
『・・・三条さん』
『何だい、Mr.シークレット・ウェポン?』
『秘密のままで終わる秘密兵器もありますよね?』
『(爆笑して)それ、今年一番の冗談だよ、湯川くん!』
『いや、本気なんですけど・・・』
『そうだね、本気本気(ニコニコしながらベンチに向かう三条さん)』
『いや、三条さん!!(追いかけてベンチに行く湯川くん)』

試合開始90分前。
僕らのベンチでは最終のミーティングが行われていた。
とはいっても、もう全員必要な事は頭に入ってるので、正確にはルーリーさんの気合入れ、と云うのが正しいかもしれない。

『おい!向こうのベンチ(1塁側)を見てみろ!あの(ここでは書けない形容詞)の、福岡正義のせがれっていうのはどこにいるんだ!(全員顔は知っているのは承知)』
『いないわね(よし子さん)』
『姿はないな(四郎さん)』
『急な体調不良とかじゃないといいけど(三条さん)』
『ワカイコハ、イマセンネ(サントスさん)』
『成仏したか?(柳さん)』
『↑ 坊主の言葉とも思えねぇな(寺内さん)』
『アタシ、人の顔覚えるの苦手なんすよねぇ・・・でも、坊主頭はウチのが一人だけかと(鈴木さん)』
『いませんね。どうしたんだろ?(湯川くん)』
『教えてやろうか?なんと!あいつと、あいつの(ここでは書けない形容詞)な球を受けるあいつのパイセンは、試合開始30分前にのこのこやってきて、ぶっつけでオレたちに投げるそうだ!』
『(三条さん以外は目が真剣になるオッサン、オバサン達と湯川くん)』
『七回X勝ちで、ノーヒッター宣言したらしいぞ!』
『(三条さん以外は人殺しの顔になってトランス状態に入っているオッサン、オバサン達と湯川くん)』
『よーし、エンジンかかってきたな。それでは』
『(手を挙げる三条さん)かんとく、質問でーす』
『・・・なんだ、正平?』
『なんでかんとくは、そんな情報を知ってるんですか?』
『それはどうでもいいだろ』
『納得いきませーん』
『・・・昨日リコに電話させたんだ。案の定、調子に乗ってビッグマウスを披露したらしいぞ』
『何でもありですね、ルーリーさん(笑)』
『当たり前だ。今日はウチの勝ち負けだけじゃないからな。どんな汚い手も使うぞ』
『はいはい』
『正平!オレは本気だからな!!』
『わかってますよぉ。さ、野球だ野球だ!』
『・・・そうだな。(トランス状態で人殺しの顔になってる七人とニコニコしている三条さんに)では、スタメンを発表する!!』

(トランスがとける七人と、ニコニコしている三条さん)

『みんな、大丈夫ですか、大丈夫ですね?』
『・・・三条さん』
『湯川くん初めてだったんだね。ガチのミーティングは』
『毎回こんななんですか?』
『まぁ、今日は特別かも、ね?』

さて、落ち着いたところで。
わが「広島ルーリーカープ」(先攻)のオーダーは下記の通り。

1番:柳 純真さん(遊撃手)
2番:寺内 健太郎さん(二塁手
3番:三条 正平さん(一塁手
4番:広島 ルーリーさん(三塁手)★
5番:『ガブリエル・ロッソ』サントスさん(中堅手
6番:湯川くん(左翼手
7番:外木場 四郎さん(捕手)
8番:鈴木 市朗さん(右翼手)★
9番:外木場 よし子さん(投手)
控え:幽霊選手、約1名(現在広島さんのお母さんが出席可能か調整中との事)

注:★は左打者

対する福岡正義さんの率いる『福岡ゴールデンホークス』(後攻)のオーダーは。

1、2番:福岡さんの会社で働いてる人(平均三十代半ば)
3番:福岡 鷹一(投手)
4番:山梨 卓也先輩(鷹一の先輩で三年生。捕手)
5番:福岡 正義さん(鷹一のお父さん。三塁手
6~9番:福岡さんの会社で働いてる人(平均三十代半ば)
控え:福岡さんの会社で働いてる人(平均三十代半ば)×10人ほど

で、ある。
(悪意があるって?とんでもない、もちろんそうだよ)

ちなみに「どこの球団だよ」というブレまくった名前は、鷹一のお母さんが東北出身という、やむにやまれぬ事情があったらしい(ちなみにお父さんは九州出身)。

んで、試合前の練習とかいろいろやって(草野球だよ?)、試合開始30分前。

信じられるかい?
草野球なのにスタメン発表があったんだ!

福岡ホークスも広島ループ(広島ルーリーカープの略)も。
ものすごく盛り上がった!

ただ、僕の名前がアナウンスされたとき。
広島さんと、広島さんのお母さんと、ベンチのチームメイトが歓声を上げたほかは。

まるで球場全体が福本伸行のマンガみたいにザワザワしてたんだ・・・。

僕の同級生、広島さんはとなりのクラスの人気者。
だけど僕にだけよく分からない事をいいにくるのが玉に瑕。

次からいよいよ試合が始まる?