その六十五。
僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。
だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。
(学校のお昼時、カフェテリアで)
『ねぇ、湯川くん(お弁当袋を提げた広島さん)』
『何、広島さん?(肉うどん定食を食べている湯川くん)』
『(湯川くんの対面に座りながら)すわっていい?』
『すわってるよね。岩国さんと一緒にお弁当食べないの?』
『ここのところは一人で食べてるよ。恥ずかしいから・・・(ため息)』
『恥ずかしい?』
『ここのところのカープの連敗で、お母さんの作ってくれるご飯やお弁当が、どんどん雑になってるの』
『まぁ、気持は分からないでもないけど。で、どれくらい雑になるの?』
『これくらいだよ』
(お弁当箱をあける広島さん。中身はごはんと紅生姜だけ)
『・・・これは、なんだろう?暴力に近いね』
『これだけじゃ食事にならないから、ここでコロッケうどんとか肉うどんとか追加してるんだよ・・・』
『なるほど、これじゃあ岩国さんには見せられないね・・・って、なんで僕には見せたの?』
『湯川くん、絶対笑わないと思ったから』
『笑うより先に驚きが来たんだけどね』
『もういい加減、カープが勝ってくれないと。お家の中がギスギスして困るよ!』
『広島さんの家は特にそうだろうね』
『昨日の夕食だってツナ缶とごはんとキャベツ、それにめちゃめちゃ辛いお味噌汁』
『お父さんやお祖父ちゃんは何にも・・・云わないよね』
『もちろん。お父さんとお祖父ちゃんは晩酌の量が三倍になるし』
『僕のお父さんも似たようなもんだね』
『私もデザートを食べる量が増えちゃって。昨日なんかメロンパンとプリンと羊羹食べちゃった』
『メロンパンがデザートかどうかはともかく、よくないね』
『でもね、いい加減煮詰まると、外に出て、家族でキャッチボールはじめるの!』
『そういえば広島さん、最近キャッチボールができるようになったんだよね。それはいいストレス解消だね』
『うん!家族で大声出しながら球回しするの。「エラーした奴、全員殺す!」「タイムリーって言葉、忘れたのかよ!寝ぼけて野球すんじゃねぇ!!」「野手が打てないからって投手が崩れていい訳ねぇだろが、ボケぇっ!!」「でも大好きだぁ!!」』
『・・・』
僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。
だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。
カープ、早く連敗を脱出して下さい。
僕のお友達のお家が、ちょっとした事になっています・・・。