その七十七。

僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。

だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。

『ねぇ、湯川くん！！』
『何、広島さん』
『やっぱり３タテって、気持ちいいね！！（満面の笑みの広島さん）』
『そうだね』
『しかも、首位のジャイアンツ相手だしね！！』
『裏ローテに助けられた部分はあるけれど、全部勝つのはすごいよね』
『まずは初戦の田口のフォアボール！！』
『坂倉のホームランとか、森下の好投じゃないんだね』
『それは当たり前だからね！！あのフォアボールからのつるべ打ち！！』
『久々に打線がつながったよね』
『あとは島内さんとフランスア、スゴい試合を盛り上げたよね！！』
『いらないサービスだけどね』
『３点取られてもセーブついて。フランスアって、ちゃっかりさんだよね！！』
『不本意だったとは思うけどね』
『そして、第二戦の畠のデッドボール！！』
『大瀬良の好投でもないんだね』
『前はアツさんにぶつけて、今度は誠也にぶつけて。あれで完全に切れたよね！！』
『畠投手の集中力と、カープの選手たちの堪忍袋がね』
『その後ケチくさいショートゴロで１点取ったりするから、余計おこらせたよね！！』
『ケチくさいとかはともかく、堂林も調子が戻ってきて。完全に試合が決まったよね』
『でも、藪田さんが最後に盛り上げて！！』
『それもいらないサービスだったけどね。でも大瀬良に勝ちがついて良かったよね』
『ヒロインで遠藤さんにプレッシャーかけてて、お茶目だったよね！！』
『後輩を気遣う優しさって云おうね』
『そして最後の試合！！』
『さすがに手ぶらじゃ帰れないだろうし、初物の直江だし。正直厳しいと思ったけど』
『先制させて、プレッシャーのかかった遠藤さんが、さらにハードル上げて試合を盛り上げたね！！』
『絶対そうじゃないけど、とにかくその１点で抑えたのは良かったよね』
『プレッシャーって大事だよね！！』
『場合によるけどね。で、その後誠也が同点にして、直江が降りた時はもしかして、って思えるようになったよね』
『その間遠藤さんのサービスがちょこちょこ入って、飽きさせなかったしね！！』
『決して良くは無かったけど、まとめてたよね。決してサービスじゃないけどね』
『で、８回のチャンスに高梨なんか持ってきてさ！まるで勝つ気でもあるみたいなふりして、生意気だったよね！！』
『勝つ気だったからね、仕方ないよね。次は岡本からだから、ここで押さえて次で逆転する気だったんだよ。まぁ、塹江がなんとか封じ込めたけどね』
『それで原監督、「もう今日はいいや」ってなって、大竹に代えたんだね！？』
『元カープの選手だから、あまりそういう云い方はやめようね』
『代えたとたんの、サカクラン！！』
『値千金だったね。欲を言えばもっと点が取れたと思うんだけど。堂林、マジメだから気負いすぎたのかなぁ・・・でもその結局その１点を守り切ったよね』
『満塁にしてからウィーラーを引っ張り出すなんて、フランスアはファンサービスがわかってるよね！！』
『わかってやってたらホントにスゴいよね』
『ホントに良かったよね！！ホントに！！』
『まあね（・・・嬉しいのは間違いないからいいけどね）』
『よかった！よかった・・・！！』
『そうだね』
『ホントに、本当に・・・（満面の笑みが暗くなってくる広島さん）』
『？？？（広島さんの表情が曇ってくるのに驚く湯川くん）』
『ホントにさ・・・また、３タテされるんじゃないかって、ホントはすごく試合を見るのが怖くて、辛かったんだよ・・・』
『広島さん・・・』
『でも応援しなきゃって思って、ずっと、ずーっと祈ってて、そしたら最初森下さんで勝って、大瀬良さんで勝って、遠藤さんも頑張って、みんなで頑張って・・・（涙がボロボロこぼれてくる広島さん）』
『（今になって、やっと安心出来たのか・・・）』
『よかった。負けなくて、本当に良かった・・・（涙が止まらない広島さん）』
『・・・』
『ごめんね、湯川くん。なんか、急に我慢できなくなって・・・』
『ホントだよ。びっくりしたよ・・・』
『・・・ごめんなさい』
『（黙ってハンカチを差し出す湯川くん）』
『あ、有り難う・・・』

（ハンカチを受け取り涙をふく広島さん。その間、だまって顔を背けている湯川くん）

僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。

だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。

まいったな。
なんて声かけたらいいか、わかんないよ。

『大丈夫、明日は九里で四連勝だよ』

っていいたいけど。
ものすごくそうやって云いたいけど。

本当は僕も怖かったから、明日も怖いから、何にも云えないや・・・。

津田さんにしかられちゃうな、僕も広島さんも。


（このあと二人で「こいほー」というまで三十分ほどかかりましたとさｗ）