広島さん。

某カープ好きグループにてだらだら書きました。

その八十三。

僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。

だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。


 (なにやら袋を下げた広島さん、とある古ぼけたお店の前にやってくる。お店の看板には「鈴木質店」の文字)

『こんにちわーっ!!イチローさん、いますかぁ!!』
『はいはい、いらっしゃい・・・』

(店の奥から出てきたのは広島さんのお父さんの草野球仲間、質屋の鈴木一郎さん

『おや、リコちゃん。どうしたんだい。リコちゃんくらいの年でイチローおじさんの店に来るなんてのは感心しないよ?お父さんに内緒でお金が欲しいんだったらいいバイト紹介してあげるから』
『当たった!!』
『・・・何がだい?』
イチローさんは絶対そういうぞってお父さんが云ってたよ!!』
『お見通しだったね』
『うん!!それでね、もしそう云われたら、お父さんがイチローさんに云っておけっていわれた事があるんだけど』
『どんな事だい?』
『あのね、「可愛い娘に質屋通いさせるほど落ちぶれていないぞ、ふざけるな、この万年ライパチ野郎!!冗談はお前の打席だけにしとけ!!」だって!!』
『・・・サラッと酷い事云うねぇ、リコちゃん』
『私じゃなくって、お父さんだよ?』
『いや、そりゃまあそうなんだけどさ・・・で、今日は一体何の御用なの?まさかオジさんをからかいに来たわけじゃないんだろう?』
『こないだお祖母ちゃんから航空便で荷物が届いたんだけど、チームのみんなにそのお裾分けを配ってるんだよ!!』
『アマンダさんから?そうか、コロナのとばっちりで、今年もお盆はダブリンから帰ってこられないんだねぇ』
『うん。お祖母ちゃん「かとりっく」だから関係ないけど、お祖父ちゃんのご先祖様に申し訳ないって、お供え物に色々送ってきてくれて。で、ウチだけじゃなくって、イチローさんとか、三条さんとか、よし子さんたちとかにもって』
『今年もあたし達にお裾分けってかい。アイルランド人ってのは義理堅いねぇ』
『はい、これ!!(袋を差し出す広島さん)』
『(袋を受け取り、中身を出す鈴木さん)ほ、ティーリングのシングルモルト。こりゃこりゃ、なんともアタシのツボを心得てくれてるねぇ、アマンダさんは』
『昨日お母さんが御礼の電話をお祖母ちゃんにしたんだけど、その時にね、「ウチの旦那はアイリッシュを嫁にするくらい女の趣味は最高なくせに、酒となるとスコッチ一辺倒の腐れ○○だし、倅はせがれで、何でもいいからビール飲んでりゃあ幸せっていうシラミ以下の舌しか持ってない○○野郎だけど、イッチャンは世界で一番美味い酒を知ってる、世にも貴重なジャップのダチ公だからね」っていって褒めてたって!!』
『そ、そうかい・・・相変わらず口がえげつないね、アマンダさん。一体どこでそんな日本語を覚えてくるんだか』
『英語だったらしいけど、お母さんがイチローさんに云っておきなさいって日本語にしてくれたんだよ!!』
『あ、もみじさんの翻訳なんだ・・・』
『うん!!お母さんからの伝言だから、ちゃんと紙に書いて持ってきてたんだよ!!(メモを取り出してドヤ顔の広島さん)』
『うん、お利口だ。でもね、もうそれは全部忘れなよ、リコちゃん』
『なんで?』
『逆に覚えておく意味を聞きたいね』
『よくわかんない言葉があるから、明日湯川くんに聞いてみようと』
『(食い気味に)およし。湯川くんがビックリして腰抜かしてバカになっちゃうから』
『そうなの?』
『そうなの』
『ふうん・・・ねえイチローさん』
『何だい、リコちゃん』
『○○って、腐るものなの?』
『忘れなさい、リコちゃん』

(と、そこへしわがれた大声)

『おぉっ、イッチャンいるかいっ!?』

(現われたのは、ボサボサの頭に無精ヒゲ。色つきのメガネに、ぎょろっとした目つきの、小柄な老人)

『あぁ、立川(たつかわ)さん。いらっしゃい』
『まあぁあったく、冗談じゃあねぇってんだよっ!!やらかすだけやらかしてトンズラこきゃあがって!!ちょっといい仕事したなって思ったら、すぐ元に戻りゃあがる。いつまでたっても進歩ってもんがねえんだよ!!隔離明けでろくに練習できなかった九里があんだけ頑張ってんのに、しこたま身体動かせてるやつがあの体たらくってのはどういうこったい!?』
『・・・!?(いきなりの剣幕で驚いている広島さん)』
『(小声で広島さんに話しかける鈴木さん)[あぁ、この人いつもこうなんだ。別に怒ってるんじゃないから]・・・来る早々におかんむりだねぇ、立川さん?こないだのカープ?』
『当たり前だよ!!オレがジャイアンツの話をしにあんたの所へ来た事があったのかい?
『中田だね?』
『レンだけじゃあねぇよ!!何なんだよ、あのドミニカ野郎!?]
『コルニエルね』
『そう、その、にえる。速いばっかりの棒球で「打って下さいなぁ~」てなところに投げちまうんだから、どうしょうもねぇや。二人がかりで試合ブチ壊しゃあがって、あれじゃあ先発が完投しなきゃあ勝てる試合も勝てやしねぇ』
『追い上げられるかなって所だっただけにねぇ』
『追い上げる?おいあげるぅっ!?イッチャン、寝言は寝ていえよ?追い上げるってのはな、相手からもらったチャンスをキッチリ活かすとか、ここぞとばかりのタイムリーが出るのが追い上げるなんだよ!!なんだい、代打に出てきて、中途半端なスイングで空振りの三振とかよ。アレなら九里の方がまだヒット打ってたかも知れねぇぜ、そうでなければ九里で送りバントだ!!』
『・・・コースケの方が九里さんより打てると思うよ(ムッとした口調の広島さん)』
『ん?・・・何か云ったかい、お嬢ちゃん(広島さんを睨む立川さん』
『何でもないよ、立川さん・・・リコちゃん!(よしなよ、という顔の鈴木さん)』
『コースケの方が、九里さんより打てるって云ったんだよ!!』
『あぁ・・・(頭を抱える鈴木さん)』
『・・・お嬢ちゃん、お顔は可愛いけどアタマはお花畑みてぇだな?お嬢ちゃんの云う通り、田中は確かに九里よりは打てるかも知れねぇ。だけどな、田中より打てるやつは、他に腐るほどベンチに転がってたんだ。そいつらを使わねぇってのは、いったいどういう了見だったんだい?』
『それは・・・コースケの勝負強さを期待して』
『しょうぶづよさぁっ!?今の田中に聞かせてやりたいねぇ、お嬢ちゃんのお言葉を。そいつは当の田中が今一番欲しがってるもんだろうよ。いや田中だけじゃねえな、誠也も、龍馬も。揃いもそろって、その勝負強さってぇのをどっかの国に置き忘れて来ちまって、てんでだらしがねぇ。いつまでもスタメンでございって顔してねぇで、自分で志願して「由宇へ行ってきます」くらいの事が、何故云えないんだよ?それとも何か、オレ様は・・・ってな妙なプライドが邪魔してんのかねぇ?スターさまはお辛いこって』
『プライドとか関係ないよ!!みんなオジさんに云われなくたって、死ぬほど頑張ってるよ!!』
『なら結果を出せってんだよ!!高けぇ給料もらってんだ、結果出して、チーム勝たせてナンボだろがよ!!それがヤツらの商売だろうが、違うのかい?お嬢ちゃん!!』
『・・・・・・!!(顔を真っ赤にして、口を真一文字にして黙り込む広島さん)』
『(やっと話に入り込む鈴木さん)・・・もういい加減におよしよ、立川さん。こんな孫くらいの女の子にそこまでいうこたぁ・・・』
『そうだよっ、オジさんの云う通りだよ!!(さっきより大きい声で叫ぶ広島さん)』
『リコちゃん、およしなさいって・・・!!』
『(鈴木さんを無視して)でもさ!!頑張ってもがんばっても、出来ない時はあるよ!!オジさんだってあるでしょ、私だってあるよ!!でもね、頑張ってたら出来るんだよ!!カープのみんなは、出来る人たちなんだよ!!そのために小さい頃から頑張って、今あそこに居るんだもん。私たちが信じなくて、誰が信じるの!?オジさんは、カープのみんなが、出来ない人だって思ってるの!?オジさん、カープの事をちゃんと見てないんじゃないの!?』
『なんだとぉ!?』
『オジさん!!』
『なんだっ!!』
『オジさんのその顔についてる二つのまん丸いものは何なのっ!?』
『!?目玉に決まってるじゃあねぇか』
『そんなロクに目の前のもの見えない目ん玉じゃあ付けてる意味ないね!!そんな目ん玉くり抜いちゃいなよ、それで空いた穴に銀紙貼っとけばいいんだよ!!』
『なんだとぉ・・・』
『ついでにねぇ、その悪口しか云えない、汚ったない舌も引っこ抜きなよ!!引っこ抜いて二週間くらい冷蔵庫で寝かせて、それから燻製にして薄く切ってジャーキーにして、それ腹一杯食べて自分の毒に当たって死んじゃえば!?』
『このガキゃ・・・!!』
『ガキ!?ガキだってぇ!?いいよ、ガキで結構だよ!!ガキで結構コケコッコー、雨天けっこう阪神園芸、綺麗なグランドお渡しするわね、勝って頂戴タイガース、いけない相手は広島カープ赤ヘル打線にゃ歯が立たぬ、立たぬはずだよ日本の四番、鈴木誠也のホームランっっ!!!!(まるで何かが乗り移ったかのようにまくし立てる広島さん)』
『・・・(いきなりでビックリする立川さん)』
『絶対、ぜったいに、そうなるんだよっ!!オジさんは、それが出来ないカープだと思ってるの?思っててそんな事云ってるんでしょう!?』
『バカ野郎、そんな訳ねぇだろうがよっ!!カープは出来るよ、決まってんじゃねぇか!!』
『・・・!?(逆にビックリする広島さん)』
『オギャアと産まれてウン十ウン年、負けても負けてもカープ一筋だ。てめぇみてぇなガキンチョとは年期が違うんだよ、見損なうんじゃねぇ!!てめえの目の前に居るこのジジイはな、その辺のニワカやボンクラ共が、1グロスで束になってかかってきたって敵わねぇ、そもそも人種が違うジイさんなんだよっ!!』
『???(ちょっと風向きが変わってきて戸惑う広島さん)』
『まぁーったくよぉ!!・・・やれ采配がぁ、やれ継投がぁ、やれ引退しろぉ、やれトレードだぁ戦力外だぁ・・・。俺ぁな、ふんぞり返ってビール食らって、手垢のついたような古くせぇ能書きばっかり垂れてやがるバカ共が、さも知ったような上品ヅラで、小汚ぇ口から屁みてぇな文句を、ブースカブースカ、のべつこいてやがるのが、見てて一番我慢ならねぇんだ!!』
『・・・(ずいぶんと分かる気がする広島さん)』
『夏場に食らう鍋焼きうどんくらい、我慢がならねぇってんだよ!!』
『・・・(それはちょっと分からないな、と思う広島さん)』
『でもなぁ、それよりもっと気に入らねぇのは、そんなバカ野郎に好き勝手云わせている広島の鯉どもの、だらしねぇ今の体たらくなんだよ!!いい時ってのはよぉ、観てて惚れ惚れするような野球をする素質とセンスの塊どもだ。それが何だよ・・・。これがよぉ、シビれる野球なんてのが伝来してねぇ、つまらねぇ国からやってきたようなボンクラどもだったら、オレだってひとっことも文句は云わねぇさ、云うだけムダだからな。でもな、お嬢ちゃんの云う通り、あいつらはこれまで立派にその野球をやってきたし、出来るはずなんだ!!そこなんだよ、オレが歯がゆくって歯がゆくって、はらわた煮えくり返りそうになってるのはっ!!(顔を真っ赤にして、目を潤ませている立川さん)』
『・・・オジさん』
『何だよっ!!』
『オジさん、私と一緒だねっ!?』
「一緒だよ、バカ野郎っ!!」
カープが大好きでだいすきで、たまらないんだね!?』
『たまらねぇんだよ、この野郎っ!!』
『選手やスタッフがみんな好きなんだ!!』
『好きだって云ってるじゃねぇか、ふざけんじゃねぇ!!』
『はいっ!!(右手を差し出す広島さん)』
『おぉっ!!(差し出された手を握り返す立川さん)』

(握手をしたまま、大きな声で笑う立川さんと広島さん)

『まあ・・・立川さんも、リコちゃんも。おんなじ人種だから、間違いが起こるわけはないと思ってたけど。それにしたって声が大きいよ・・・(苦笑いの鈴木さん)』
『おい、イッチャン!!』
『そんなデカい声じゃなくたって聞こえるよ、立川さん』
『この子、一体どこの娘さんなんだい?』
『近所のスポーツ用品店のご令嬢さまだよ』
『そこに電話して、オヤジ呼び出せよ!!』
『呼び出してどうするんだい?』
『決まってんじゃねぇか、褒めてやるのよ!!今どきこれだけキチンとしつけの出来てる子は滅多に見ねぇからな。そのオヤジってのも褒めてやらぁ。それからよ、ここで一杯やろうじゃねぇか!!』
『まだ三時だよ、来るわけが』
『四の五の抜かすんじゃねぇよ、いいから電話しろっ!!』

 

 

僕の同級生、広島さんは隣のクラスの人気者。

だけど、僕にだけ訳の分からない事をいいに来るのが玉に瑕。

 

この後。
電話で呼ばれてやってきた広島さんのお父さん(ルーリーさん)とお祖父ちゃん(鯉太郎さん)は、出迎えた立川さんと一分もかけずに意気投合。

鈴木さんだけじゃなくって、草野球チームのオジさんたちも巻き込んでの大宴会を翌朝までやって。

『このコロナ渦に何やってるんですか、非常識な!!』と。

ここでは書けないような日本語で、広島さんのお母さんにこっぴどく怒られたそうです・・・。