その四十四。(25の引退とベースボール・ワンダーランド)
私の名前は岩国由宇。
広島鯉子ちゃんの親友だ。
彼女はクラスの人気者。
だけど、カープについて時々わけの分からないことを云うのが玉に瑕。
話しは彼女と湯川くんとで行ってきた三月十六日のズムスタ。
セレモニー前にさかのぼるんだけど。
『じゃあ、いってくるね』
『ごめんね、湯川くん(手を合わせる岩国さん)』
『こういうのは男の仕事だよ。えーと、二人ともうどんは』
『全部のせに決まってるよ!!(カープうどんには情熱のある広島さん)』
『だよね。じゃあ、精算はあとでね(売店に向かう湯川くん)』
『のびない内に戻ってねぇ!!(カープうどんに早く出会いたい情熱的な広島さん)』
『よし、オッケー』
『なにがオッケーなの、由宇ちゃん? ってか、カープうどん、私が買ってくるのに(ちょっと不満げなカープうどん大好きの広島さん)』
『あの時の事、怒ってるの?』
『あきれてるのよ。いったいどうやったらカープうどんを買いにいって侍JAPANのダッグアウトにたどり着けるの?わたしには見当もつかないわ』
『ハルキっぽいね!!』
『(無視して)そんなわけで、こういうことなの。新井さんに、あんたの道案内をさせるわけにはいかないの。わかった?』
『うん!・・・それにしても由宇ちゃん、本当にいっぱいのお客さんだねぇ!!』
『そうだね』
『大丈夫かな、湯川くん?カープうどん全部のせ、一個しか買えなかったら』
『その時はリコにあげるから心配しないで』
『・・・おつゆも』
『全部っていったよね?』
『ありがとーっ!!・・・でも、すごいよね、ここって!!』
『そうだね。車イスの人もいれば、スクワットしてる人もいる。寝そべってる人もいれば、運動してる人もいる』
『うどんはおいしいし、ビジター応援団専用の檻もあるし!!』
『聞かなかった事にする、最後』
『倒置法だ!ハルキっぽいね!!』
『あんた村上春樹読んだ事ないでしょ』
『誰それ?』
『ほんと私と湯川くん、すごいなぁ・・・』
『そういえばさ、由宇ちゃん!』
『何、リコ?』
『今シーズンからズムスタで温泉に入れるんでしょ?』
『私にはときどきリコがカープファンなのかどうなのかわからなくなるわ・・・ハルキっぽい?』
『ドンズバのストライク!!』
『なんとなくハルキのツボが分かったな。あのね、リコ。今シーズンにできたのは温泉じゃなくって、バスタブ型のシートなの』
『・・・じゃあ、温泉じゃなくって、ただのお湯が』
『出ないの』
『つまんないね』
『まぁ、野球を観るのとは全く関係ないだろ、っていう意見もあるみたいだけど。そこに行った人が楽しめればいいんじゃない?ためしにリコ、湯川くんと行ってみれば?』
『えぇ、やだよぉ!!由宇ちゃんとならいいけど、絶対ないって!!(顔を真っ赤にする広島さん)』
『落ち着いて。あくまでシートだから、ハダカになんなくていいの』
『あ、そうなんだ』
『風邪引いちゃうでしょ、だいたい』
『だよねー!!でも、お風呂に入れるんならお父さんとお母さんと三人で行って、「まるでうちでお風呂してるみたいだね!」とかいえるけど、お湯がでないんじゃあ』
『リコ、ちょっとまって。今、なんて云った?』
『お湯が出な』
『その前よ』
『あ、それもハルキっぽ』
『いいから云って』
『お風呂に入れるんなら、お父さんとお母さんと三人で行って、まるでうちでお風呂してるみたいって・・・』
『(イヤな予感しかしない岩国さん)リコ、あんた、まだお父さんとお風呂入ってるの?』
『お母さんも一緒だよ!』
『この際、母親の事なんてどうでもいいの』
『ハルキっぽ』
『(みなまで云わせず)いい、リコ。親友の私から、ひとつお願いがあるの・・・これもハルキっぽい?』
『うん!!』
『お父さんとお風呂に入ってる事は。湯川くんにきかれない限り話さない事。いい?』
『お母さんとは?』
『きかれない限り話さない事』
『わかった』
『それとね、リコ』
『なに?』
『バスタブ型のシートは、二人までなの』
『なーんだ、そこしか空いてなかったら仕方ないけど、いかないな、わたしは!』
『そうね、そうよね・・・』
(湯川くん、無事に戻ってくる)
『おまたせ、広島さん、岩国さん!』
『湯川くんお疲れさまーっ!!』
『のびてない?のびてない?(カープうどんへの情熱が再燃する広島さん)』
『大丈夫だよ、はい、広島さん!』
『わーい!!(カープうどんへの情熱が満たされ幸せな広島さん)』
『岩国さんも!』
『ありがとう、湯川くん(カープうどんが風呂桶にみえて少し複雑な岩国さん)』
『どうしたの、岩国さん?』
『ん?なんでもないよ。カープうどん久しぶりだなぁってちょっと感動しちゃった』
『味わって食べてね』
『ありがとう。混んでたでしょ、お店?』
『そりゃあ。行列がまるで赤いヘビみたいに売店までのびてて』
『うわ・・・』
『でも、結局並ぶしかないからね』
『ほんとごめんね』
『どういたしまして。ヘビのしっぽからアタマになるなんて、めったにない経験さ』
『ハルキっぽいね!!(カープうどんを食べ終わって満足な広島さん)』
『でしょ?』
『湯川くん、知ってるの!?』
私の名前は岩国由宇。
広島鯉子ちゃんの親友だ。
彼女はクラスの人気者。
だけど、カープについて時々わけの分からないことを云うのが玉に瑕。
リコの秘密はさておき。
サプライズの二人が登場したとき。
賢明な選択(リコにうどんを買いにいかせない事だ)をした自分に。
私はカープうどんを一杯 おごってやってもいい気分だった。
あ、ハルキっぽい。
※村上春樹ファンのかた、本当にごめんなさい。怒らないでください。ぼくはマニアではありませんが何作か読んでますし、エッセイや旅行記なんかはホント大好きです。
(kinokuni50)